文豪のまち文京区
日本近代文学と文京区
~文豪に愛された町~明治十八年(西暦1885年)。坪内逍遥が、『小説神髄』を発表したのが、本郷真砂町18番地(現在の本郷4丁目)、炭団坂の上でした。日本の近代文学の出発点ともいわれるこの作品の発表を皮切りに、文京区は、近代文学の潮流の中心地として、文学とともに発展してきました。旧帝国大学(東京大学)がおかれた本郷地区を中心に、学問に必須である出版・印刷業が栄え、多くの知識人や文化人が集まりました。同時に小説家や詩人たちも居を構え、後世に残る優れた作品を多数残しました。文人たちの生活の場であったと同時に、彼らの作品の舞台としても、文京区は数多くの作品に登場しています。また現代においても、小説や漫画、アニメ等でも、文京区は数多くの作品の舞台として登場しています。
文京区が登場する作品
- 『雁』森鷗外
- 『青年』森鷗外
- 『吾輩は猫である』夏目漱石
- 『三四郎』夏目漱石
- 『にごりえ』樋口一葉
- 『天鵞絨』石川啄木
- 『D坂の殺人事件』江戸川乱歩
- 『伝通院』永井荷風
- 『足跡』徳田秋聲
- 『湯島詣』泉鏡花
- 『舟を編む』三浦しをん
- 『ちはやふる』(漫画)末次由紀
- 『啄木鳥探偵處』伊井 圭(2020年アニメ化)
- 『心淋し川』西條 奈加
文京区ゆかりの文人
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森鷗外
(1862-1922)- 本名
- 森林太郎
明治6年、11歳で東京医学校予科に入学。学校があった本郷の加賀屋敷跡の寄宿舎に入る。東京大学医学部を卒業後、4年間のドイツへ留学。
帰国後は軍医の傍ら、翻訳・小説・戯曲・評論等を発表し、明治・大正時代を代表する文人として活躍。
千駄木団子坂上にあった「観潮楼」には1892年から1922年に60歳で亡くなるまで暮らした。
現在「観潮楼」跡には「文京区立鷗外記念館」が設立され、森鷗外のさまざまな側面からの魅力を紹介している。- 代表作
- 『舞姫』『阿部一族』『青年』『山椒大夫』『雁』『高瀬舟』等
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夏目漱石
(1867-1916)- 本名
- 夏目金之助
明治17年、小石川植物園下の新福寺の2階に、牛込の自宅を離れ友人と住み、大学予備予備門に入学。
東京大学英文科卒業後、東京高等師範学校の講師となり、小石川伝通院のそばの法蔵院に間借りした。この場所から『坊ちゃん』の舞台である松山中学へ赴任した。
明治33年、英語研究のためイギリスへ2年間留学。その後千駄木に住み、小泉八雲の後任として東京大学英文科の講師となる。なお、処女作である『吾輩は猫である』は千駄木で書かれたもの。- 代表作
- 『吾輩は猫である』『草枕』『坊ちゃん』『三四郎』『野分』『虞美人草』 等
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樋口一葉
(1872-1896)- 本名
- 樋口奈津
24年間の短い生涯のうち文京区内在住期間は約10年余。
明治9年、4歳の時から5年間を過ごしたのは東京大学赤門前(法真寺東隣)。下谷時代(現台東区)には、14歳で小石川の安藤坂の歌塾萩の舎(はぎのや)に入門、和歌と古典の勉強に励んだ。
父の病死で若くして戸主になった一葉は、半井桃水に師事し、小説家を志す。
その後、下谷竜泉寺に移るが再び戻り、亡くなるまでの2年6か月間に名作を書き、24歳8か月の若さで亡くなった。- 代表作
- 『大つごもり』 『たけくらべ』 『にごりえ』『十三夜』等
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石川啄木
(1886-1912)- 本名
- 石川一
明治19年2月20日、岩手県に生まれる。
最初の上京時に下宿したのは、現在の音羽一丁目八幡坂上。2度目の上京では向ヶ岡弥生町。3度目の上京では、北海道での放浪生活ののち、明治41年に、同郷の先輩金田一京助をたよって、菊坂町の赤心館に下宿した。 家賃の滞納で森川町の蓋平館別荘に移り、家族を迎えて弓町の喜之床(現・新井理髪店の地)に移る。明治44年、小石川久堅町に移り住み、翌年没。
現在、終焉の地には歌碑が設けられ、隣接する高齢者施設内に「顕彰室」が設置されている。- 代表作
- 『一握の砂』『悲しき玩具』『呼子と口笛』『時代閉塞の現状』 等
名前 | ふりがな | 肩書き | 年代 |
---|---|---|---|
有島 武郎 | ありしま たけお | 小説家・詩人 | 1878~1923 |
石川 啄木 | いしかわ たくぼく | 歌人・詩人・評論家 | 1886~1912 |
伊藤 左千夫 | いとう さちお | 歌人・小説家 | 1864~1913 |
井上 円了 | いのうえ えんりょう | 哲学者 | 1858~1919 |
井上 哲次郎 | いのうえ てつじろう | 哲学者・詩人 | 1855~1944 |
宇野 千代 | うの ちよ | 小説家 | 1897~1996 |
江戸川 乱歩 | えどがわ らんぽ | 推理小説家 | 1894~1965 |
円地 文子 | えんち ふみこ | 小説家 | 1905~1986 |
尾崎 紅葉 | おざき こうよう | 小説家・俳人 | 1867~1903 |
大町 桂月 | おおまち けいげつ | 詩人・随筆家・評論家 | 1869~1925 |
※参考 「文京ゆかりの文人たち」 文京区教育委員会